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2020-06-01

TPC FM-AConnect CTI ― Amazon Connect と FileMaker WebDirect 19 による CTI

TPC FM-AConnect CTI について

 
 本稿では、Amazon Connect と FileMaker WebDirect 19 を連携させた CTI(Computer Telephony Integration)プロトタイプ・TPC FM-AConnect CTI の仕組みと機能をご紹介します。

 Amazon Connect は、AWS上で構築するクラウドベースの PBX/コールセンターシステムです。レガシーPBXを使用したコールセンターシステムに比べ、初期費用に抑えてシステムを構築できます。
 これによりオフィス内のスタッフはもちろん、テレワーカー(在宅勤務者)でもCTIを利用できるようになります。

TPC FM-AConnect CTIの主要機能

  1. FileMaker WebDirect 19のアプリ(FM-AConnect WD)を使用した着信時顧客情報ポップアップ(着信した電話番号により顧客データベースを検索し、その顧客情報をオペレータのPC画面に表示する機能)

  2. FileMaker DB に登録された電話番号とオペレータIDに基づく、オペレータへの配信(着信番号別オペレータ割当、例えば顧客DBで顧客AとAを担当するオペレータXが紐付けて登録されている場合、Aの電話番号を着信するとXに転送する

  3. チャット ― テキストによるチャット

  4. 通話記録 ― 音声通話を記録・再生する機能

 WebDirect とは FileMaker で作成したアプリをそのままWeb公開する機能です。FileMaker のデスクトップアプリと高い互換性を有しており、そのほとんどの動作をWebブラウザ上で再現可能です。また、バックエンドとなるデータベースには FileMaker に限らず、ODBC経由で Oracle、MySQL、SQL Server、DB2*1、PostgreSQL*1 を使用することができ、他の開発ツールに比べ短い時間で CTI のフロントエンドを開発することが可能です*2

 Amazon Connect の電話端末となるソフトフォン・CCP もブラウザで動作する Webアプリであるため、WebDirect との親和性、JavaScript による相互の制御性は高いといえます。

注:
*1 DB2、PostgreSQL を使用するには、Actual社の ESSアダプタが必要。
*2 WebDirect については、当社の過去のBlog記事(一覧)をご覧ください。

仕組みと Amazon Connect の問い合わせフローについて


 以下が TPC FM-AConnect CTI のシステム構成図となります。
図でCCP (Contact Control Panel)とあるのが Amazon が提供するソフトフォンで、Windows/Mac の Firefox あるいは Chrome 上で動作します。残念ながら、スマホやタブレット、SIPフォンには対応していません。

 顧客からの電話が入ると、まず Amazon Connect が1つ目のCCPに電話を転送し、転送先の CCP はPCのスピーカーから呼び出し音を発生させます。
 

 上記の処理の流れは Amazon Connect の問い合わせフローによって制御されます。
問い合わせフローとは、問い合わせの一連の処理の流れをシナリオ化したものです。
TPC FM-AConnect CTI には、以下の 3 つの主要問い合わせフローによって構成されています。

メインフロー


 窓口となる Amazon Connect の問い合わせフローです。顧客からの着信が音声通話要求なのか、チャット要求なのかによって各サブフローを呼び出します。

 上記の流れを簡易フローチャート化すると、以下のようになります。

サブフロー:音声通話応答用問い合わせフロー

 メインフローにより、音声通話要求と判断された場合に実行される Amazon Connect の問い合わせフローです。通話着信があってからCCPでの通話が開始されるまでの問い合わせフローは次のようになります。
TPC Call Automatic Response フロー
上図は1画面に表示するため、エラー時のフロー転送とハングアップを増やしてます

 
 上図を簡易フローチャートにすると以下のようになります。 
 このとき FM-AConnect WD は着信した電話番号を取得し、その番号によりデータベースを検索し、顧客情報をポップアップ表示します。

 上図を補足解説します。

  1. ログ収集開始では、Amazon Kinesis Stream というデータストリームを有効にし、通話開始時のタイムスタンプを取得します。このタイムスタンプは、Amazon S3 に保存される通話記録ファイル(後述)名をデータベースに保存するために必要となります。なお、Transcribe(AWSの音声→テキスト変換モジュール)を利用する場合も、この Kinesis が必要となります。

  2. Amazon Connect のオペレーション時間設定を使用し、会社の営業時間を設定します。営業時間内であれば次に進み、時間外であれば顧客にその旨を告げる音声アナウンスを行い、通話を終了します。

  3. AWS の Lambda 関数に定義されている FileMaker Data API により、着信電話番号に該当する顧客担当者(担当エージェント)を検索し、通話要求を担当者の CCP に転送を試みます。以下は、転送時の分岐処理。

    • 顧客担当者検出 --- その担当者に通話要求を送信
    • 顧客担当者を検出したが不在 --- 通話可能な担当者に通話要求を送信
    • 顧客担当者未検出(DBに登録無) --- 通話可能な担当者に通話要求を送信
    • 顧客担当者不在 --- 未達メッセージを自動音声アナウンス → 通話終了

  4. AWS の Lambda 関数を使用し、受信した電話番号をJSON形式でWebクライアント(ここでは FM-AConnect WD)に渡します。FileMakerのファイルには「電話番号による顧客検索スクリプト」を用意し、電話番号は引数で渡せるようにしてあります。
    Webサーバ上に配置するHTMLページには 上記のCCP を埋め込んでおき、Lambda が生成したJSON形式の電話番号を取得し、Webビューアに設定してある FileMaker.PerformScript (電話番号で顧客検索スクリプト,  電話番号) を実行します。

    この FileMaker.PerformScript( ) は FileMaker 19 で導入された新機能で、Webビューア内の JavaScript から FileMaker のスクリプトを実行できます。これにより、CCPに着信があると、FileMaker WebDirect のアプリで顧客情報が検索されるようになります。

    CCP(右)に着信すると、WebDirect(左)は自動的に電話番号で顧客を検索・表示する

  5. 担当者の CCP まで通話要求が転送されると、CCP が呼び出し状態となり、✓ボタンをクリックすると通話が開始されます。
 以下の動画では、上記のフローに基づき実装したCTIの着信時顧客情報ポップアップ機能をご覧いただけます。

 

通話記録再生機能について

 通話記録は音声ファイルとして AWS S3 サーバに保存されます。通話記録ファイルは FileMaker WebDirect アプリケーションの「交信履歴」タブのリストから再生することができます。 
 

サブフロー:チャット応答用問い合わせフロー

  TPC FM-AConnect CTI にはチャット機能も用意されています。チャット機能のシステム構成図は以下のようになります。

 メインフローにより、チャット要求と判断された場合に実行される Amazon Connect の問い合わせフローです。チャット要求があってから CCPでのチャットが開始されるまでの問い合わせフローは次のようになります。

Amazon Connect TPC Chat Flow
上図は1画面に表示するため、エラー時のフロー転送とハングアップを増やしている

 上図を簡易フローチャートにすると以下のようになります。 
 
 上図を補足解説します。
 
  1. 貴社のWeb サイトにチャット開始用のページを用意し、顧客はこのページからチャットを開始します。


     顧客の上図の"Start Chat"をクリックするとチャット用の API Gateway にアクセスが行われ、Lambda 関数によりチャットセッションが開始し、Amazon Connect のチャット応答用問い合わせフローに入ります。

  2. Amazon Connect のオペレーション時間設定を使用し、営業時間をチェックします。時間内であれば次に進み、時間外であれば顧客にテキストでアナウンスを行い、チャットを終了します。

  3. 切断フローとは、エージェント側がチャットを終了したときの処理を定義したフローです。たとえば、チャットのお礼メッセージ、顧客への案内メッセージ、企業プロモーション情報などを送信したり、Amazon Connect の内部処理などを定義したりできます。

  4. 担当エージェントの CCP が呼び出し状態となりますので、✓をクリックするとチャットが開始されます。
  5. チャットが終了すると、上記の 3. の切断フローが実行されます。たとえば、以下のようなメッセージが顧客側に表示されます。

 
 Amazon Connect でシステムを構築するのは上記のようにそれなりの工数が発生しますが、ハードウエアの初期費用が不要で、運用コストも廉価です。また、システム構成もハードウェアを気にすることなく柔軟に変更することが可能です。
 
 コロナ等の感染症や台風・洪水などの自然災害が多発する昨今、オペレータの居場所に拘束されない Amazon Connect の導入は今後増えるものと予想されます。

以上

2018-08-31

FileMaker Server の運用をオンプレミス、AWS、FileMaker Cloud で比較してみる

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コロナ蔓延により 優位性増すクラウド

本稿は2018年8月の記事で、クラウドとオンプレミスを項目別に評価(下表参照)しています。
 同表内のBCPの項ではクラウド(AWS/FMC)が優位にありますが、昨年の台風19号や今回のコロナの蔓延により、各企業・団体でのBCPの"重み"は急激に増しています。インフラ構築とその運用をすべてリモートで行えるAWS等のクラウドは、テレワーク/在宅勤務の観点からも優位です。

 土屋企画では、FileMakerシステムの移行を含むAWSインフラ及びテレワークシステムの構築を支援・実施致します。

参考リンク(土屋企画のWebサイト):
■AWSとテレワーク
■リモート開発とテレワーク
■Amazon connect と FileMaker WebDirect による CIT の無料試用サービスについて
(2020年5月1日加筆)

ローカル → EC2  vs  ローカル→Workspaces→EC2
 ~ FileMakerクライアントの実行速度を比べる ~

「FileMaker Cloud やAWS EC2 の FileMaker Server が遅い!」と感じていませんか? Amazon EC2 上の FileMaker Serverに、3つのクライアント(ローカルPC直接続、WorkSpace 1、WorkSpace 2)からアクセスし、データベースのソート速度を比較してみました。


(2020年5月14日加筆)

Amazon Connect と FileMaker WebDirect 19 による CTI


 Amazon Connect と FileMaker WebDirect 19 を連携させ、 CTI(Computer Telephony Integration) の主要機能の1つである「着信時顧客情報ポップアップ」を実現する事例をご紹介します。



(2020年6月15日加筆)

(以下、本文)
2017年7 月の FileMaker Cloud リリース以来、FileMaker Server のクラウド環境での運用も増えているようです。これにより企業では FileMaker Server 導入時に、オンプレミス(自社サーバ)、AWS EC2(Amazon社が提供するクラウドサービスで、ユーザは 自身で適切な Windows OS を選択て、FileMaker Server のインストールを行う)、FileMaker Cloud(FileMaker 社が Amazon マーケットプレースで提供する AWS EC2上で稼働する  FileMaker Server プラットフォーム)の 3 つのプラットフォームから選択することになります。

 ユーザはこれら3つのサービスでどれが自社に最適なのか悩むところですが、結論的なことを先に言ってしまうと、システム担当者がいない会社では FileMaker Cloud がお勧めです。FileMaker社が提供するチュートリアルに沿って設定を行えば、通常は数十分で FileMaker Server の準備が完了します。従来からある素の AWS EC2 に比べると、FileMaker Cloud は簡単です。

 オンプレミスかクラウドかはほとんどの場合、企業・組織がもつサーバポリシーによりほぼ自動的に決まってしまうかと思われます。データの秘匿性、セキュリティを重視する会社ではクラウド自身を禁止しているところもありますし、基幹システムはオンプレミスで、その他はクラウドに出すところ、IT部門の人員を削減するためサーバは全てクラウドにするところもあります。逆にサーバの仮想化をすすめ自社のサーバ室ですべてを運用することによりコストダウンを図る会社もあります(当社はこの形態に近いです)。

 本稿では、オンプレミス、AWS EC2、FileMaker Cloud の3つのプラットフォームを機能面と費用面から比較しています。機能については項目別に点数をつけていますが、企業・組織により各項目の重みは大きく異なるので、点数は参考値としてご覧ください。

 なお、3者とも FileMaker Server 17 の年間ライセンスを 25 使用することを前提としています。また、FileMaker Cloud はラインセンスのクラウドへの持ち込み(Bring Your Own License: BYOL)を前提としています。

 始めに機能・運用環境を比較してみます。FileMaker 社の公式ページ FileMaker ServerとFileMaker Cloudの比較 をベースに、さらに検討が必要と思われる項目を追加し、オンプレミス、AWS EC2、FileMaker Cloud 別に点数をつけてみました。

表1. オンプレミス、Amazos Web Service、FileMaker Cloud の機能・運用環境比較
No 比較項目 オンプレミス
(OP)
AWS EC2
(AWS)
FileMaker Cloud
(FMC)
説明
1 初期費用(ハード/ソフト) 1 5 5 表2参照
2  運用費用(ハード/ソフト)
4
3
2
表2及び表3参照
3  ハードウェア導入時の手間
2
4
4
OP:ハードウェア/UPS/バックアップ機器等の選定と購入が面倒
AWS:インスタンスタイプの選定のみ。OPに比べ簡単
FMC:インスタンスタイプの選定のみ。OPに比べ簡単
4  OS(選定/インストール/設定)
2
4
5
OP:自社で OS の選定、インストール、各種設定が必要
AWS:OSの選択は必要だが、インストールは不要
FMC: OS 選定もインストールも不要
5  FileMaker Server セットアップ
2
3
5
OP:自社ですべて行うため時間と労力がかかる
AWS:同上
FMC:20分程度(他に比べ簡単)
6  FileMakerライセンスの柔軟性
3
3
2
OP/AWS:自社で FMS ライセンスを用意する必要あり
FMC:AWS MarketPlace から BYOL、またはライセンス込みの FMC オプションを 選択可能。
AWS のユーザ登録とサーバ(EC2)、ストレージ(EBS)の指定が必要。
詳しくはFileMaker Cloud の購入方法を参照。
7  OS・ハードウェアの監視・管理
2
4
5
OP:社内担当者の負担大。
AWS:OS等ソフトウェアは社内担当者が管理、ハードウェアはAmazonにお任せ。
FMC:社内担当者の負担は最小。FMC 側でリアルタイム監視、OS更新通知、ソフトウェアパッチの自動通知
8  バックアップ
5
5
1
OP/AWS:サーバ管理者が計画、設定を行う必要があるが、バックアップスケジュールを自由に設定でき、単独ファイルのバックアップ、フルバックアップ等、柔軟な設計が可能。
FMC:FMC 側で自動メンテナンスを有効にすることによって自動バックアップ可能だが、サーバ環境の AWS スナップショットとなるため、バックアップスケジュールの柔軟性は低い。
FileMaker Cloud のバックアップの操作 を参照。
AWSスナップショットのバックアップはデフォルトで 20分ごとに実行される。一週間で計 504個のバックアップが保持され、古いものから順次自動削除される。よって、一週間より前のバックアップが必要な場合、他のバックアップ方法が必要となる。
バックアップのリストアは EBS ボリュームにスナップショットをアタッチする。ファイル単位の復旧は面倒(関連記事:FileMaker Cloud and Manual Backup Restore(英語))。
9  スケーラビリティ
2
4
4
OP:非仮想化環境の場合、ストレージ/メモリ/コア数の拡張には物理サーバ等のハードの入れ替えが伴うが、仮想マシンであれば拡張は容易で、費用は発生しない。
AWS/FMC:ストレジの拡張、サーバのアップグレードはオンラインで行えるが、拡張すれば運用コストもアップする。
10  最大アクセス数(FM社検証値)
5
5
3
OP/AWS:最大500 同時アクセス
FMC: 最大 100 同時アクセス
11  アップタイム(継続稼働)
3
4
4
OP:会社のポリシーと管理者の力量に依存。
AWS/FMC:99.99% のアップタイム(理論値と思われる。表外のコラム参照。
12  BCP(災害時復旧)
2
4
4
OP:災害被災時は焼失等により復旧不能となる可能性あり。同時被災の可能性が少ない遠隔地ストレージへのバックアップが推奨される。
AWS/FMC:OPに比べ影響を受ける可能性は少ないと思われるが、被災可能性は無いとは言えない。
13  ネットワーク
5
3
3
OP:LAN専用の場合、インターネット環境に影響されない。WANの場合は回線品質に依存する。
AWS/FMC:インターネット接続必須。実行速度はAWSのインスタンスタイプに加え、自社が使用する回線品質にも依存する。OPに比べ、WANの構築は容易。
14  サーバ証明書
3
3
3
OP/AWS:自前の証明書をインストールする必要あり
FMC:Comodoの試用版SSL証明書が付属(90日)
15  サーバ認証
4
4
3
OP/AWS:FileMaker ユーザアカウント認証、Active Directory/Open Directory および OAuth 2.0 アイデンティティプロバイダを使用した外部認証
FMC:FileMaker ユーザアカウント認証、 OAuth 2.0 アイデンティティプロバイダを使用した外部認証
16  サーバサイドスクリプト
5
5
2
OP/AWS:サーバ管理者が計画、スケジュール設定
FMC:スケジュール機能は限定的
17  ESS
5
5
2
OP/AWS:ESS使用可
FMC:ESSアダプタ以外は ESS 使用可
18 ODBC/JDBC
5
5
4
OP/AWS:ドライバのインストールが必要
FMC:ドライバのインストールが必要、専用ドライバの提供あり
19  プラグイン
5
5
3
OP/AWS:使用可能
FMC:一部対応していないものがある可能性あり
20  カスタムWeb with PHPおよびXML
5
5
-
OP/AWS:使用可能
FMC:使用不可
21  FileMaker Data API
3
3
3
OP/AWS:使用可能
FMC:使用不可
注:
本機能は1ライセンスあたり年間24GB のアウトバウンド転送量が付属するが、この転送量を超過するとライセンスを追加購入するが必要ある
土屋企画評価
73
86
67

 2019年8月14日、DNS の問題により、FileMaker Cloud for AWS にアクセスできない問題が発生しました。

 FileMaker Cloud の DNS障害について  [FileMaker Community]



 2019年8月23日、AWSの東京リージョンで大規模な障害が発生しました。



 同日17時現在、当方で利用している東京リージョンの AWS EC2 にはアクセスできましたが、AWSの Service Health Dashboard をみると、まだ完全復旧はしていないようです。9時~17時までの8時間、システムが停止している会社もあるかも知れません。

 上記のような障害は頻繁に発生するものではないと思いますが、クリティカルなシステムでは想定しておかないといけないですね。

 AWSかオンプレミスか、最先端のAmazon AWS vs 自社システム部門… 明日はどっちだ!

参考:
2018年からAWS東京リージョンでもリージョン間VPCが可能になっていて、リージョン間クラスタの構築が可能だそうです(参考記事)。今回の障害発生時、リージョン間クラスタは機能したのでしょうか。


 次に初期費用をシミュレーションしてみます。下表が、オンプレミス、AWS EC2、FileMaker Cloud 導入時に発生する諸費用となります。

 当然ですが、オンプレミスは自前のサーバが必要となります。サーバが無い、あるいは既存のサーバに空きが無い場合、サーバを購入しなければなりません。

 これに対し、AWS および FileMaker Cloud は、初期費用としてサーバ証明書と FileMaker 年間ライセンス費用のみとなるので、初期費用を抑えることができます

表2. サーバ仕様と初期費用比較
No. オンプレミス
(OP)
AWS EC2
(AWS
FileMaker
Cloud(FMC)
補足
1  サーバ証明書
(COMODO 企業認証タイプ SSL)
¥27,864 ¥27,864 ¥27,864 ・金額は消費税込み。
・FileMaker Cloud はComodo試用版SSL証明書が付属(90日)するが、90日以降の運用を想定して料金に追加
2  FileMaker Server
年間ライセンス費用
¥390,000 ¥390,000 ¥390,000  
3  サーバ配置場所
自社
AWS AWS  
4  リージョン
自社
東京 東京 「東京」のAWS正式呼称:Asia Pacific (Tokyo)。FileMaker Cloud の場合、アジアで選択できるリージョンは、東京とシドニーのみ
5  フルフィルメント・オプション
AIM AIM AIM:Amazon Machine Image (64bit アーキテクチャ)
6
 サーバタイプ
(インスタンス種別)
EC2(t2.large)
EC2(t2.large)
 
7
 HDD/EBS
(追加ストレージ)容量
1000GB
40GB
40GB
FileMaker Cloud は40GBがデフォルトで付属
8
 メモリ
8GB
8GB
8GB
 
9  コア数 2 2 2  
10
 CPU
Intel Xeon
Intel Xeon
Intel Xeon
 
11  クロック
3.3GHz
3.3GHz
3.3GHz
 
12  OS
Win Svr 2016
Win Svr 2016
CentOS Linux
Win Svr 2016:Windows Server 2016
13  サーバハードウェア初期費用
¥300,000
¥0
¥0
OPはUPS、バックアップ機器等のサブシステム費用を含まず
初期費用計 ¥717,864 ¥417,864 ¥417,864  
備考:

年間ライセンスと永続ライセンスはどちらがお得なのか

同一バージョンの FileMaker Server を 3 年以上使する場合、永続ライセンス(買い切り)を購入したほうがコスト安となります。
 とういのは、FileMaker Server を 25ユーザで運用する場合、年間ライセンスは 39万円、これを 3年間使用し続けるとすると年間ライセンスは 117万円となり、この費用は永続ライセンスの金額と同額となるからです。
 よって、3年以上を超えて長く運用すればするほど永続ライセンスがお得です。

 なお、永続ライセンス自体は FileMaker Cloud で使用できない点にご注意ください。
 
 最後に月々の運用コストを比較してみましょう。

表3. 運用コスト月額概算比較
No. セットアップ項目 オンプレミス
(OP)
AWS EC2
(AWS)
FileMaker Cloud(FMC) 補足
1  1日の稼働時間(H)
24
24
24
 
2  消費電力(W)
400
400
400
ラックマウントサーバ Dell R330 相当の消費電力
3
 30日分の消費電力(kW)
288
288
288
400W X 24H X 30日÷1000 として計算
4  電力単価*2
¥17.60
東京電力の料金(夏季)
AWS/FileMaker Cloud は電力請求なし
5  電気代
¥5,068.80
AWS/FileMaker Cloud は電力請求なし
6  AWS の時間単価
$0.13   EC2(t2.large)
7
 FileMaker Cloud の時間単価
$0.117 EC2(t2.large)
8  30日分の料金
$93.60 $84.240 24H × 30日 × 上記時間単価(割引適用無し)
9 9 AWSのストレージ料金(40GB)
$4.80 料金に含む FileMaker Cloud で割り当てられる EBS (40GB)
目安
10  アウトバウンド転送料金 (50GB) ¥0 $6.86 $6.86 保守用のデータ転送として 50GB を想定
11  AWS/FileMaker Cloud 料金合計
$105.26 $91.10  
12  米国ドル為替レート
(2018/08/29 時点)
¥111.15
¥111.15
 
運用費用月額計*1
¥5,069
¥11,700 ¥10,126 *OPは高負荷状態を想定、冷却空調費用含まず


FileMaker Cloud の申し込みの柔軟性について

FileMaker Cloud のライセンスは、 BYOL(既存のライセンスの持ち込み) とマーケットプレース(5/10/25/100ユーザライセンス)での購入に分類できます。
 請求に関しては hourly(時間請求) と annual(年間請求)という分類になります。

 一見、簡単なようにみえますが、以下のようなことを考慮する必要があります。
  1. FileMaker Server の永続ライセンスは使用できない。但し、永続ライセンスを年間ライセンスに変換すれば Cloudでの使用が可能。
    永続ライセンスを年間ライセンスに変換し、FileMaker Cloud に適用するまでの手順が公式動画で紹介されています。
  2. BYOL はリザーブド・インスタンス(インスタンスの年間契約)を選択できないため、hourly (時間請求)の一択になる。
  3. BYOL を使用しない場合、hourly(時間請求)または annual (年間請求)を選択できるが、ユーザ数の区切りが 5ユーザ、10 ユーザ、25 ユーザ、100 ユーザの 4 択になる。同時アクセスユーザ数が 30 など、中途半端になる場合はコスト高になる可能性がある。
  4. annual を選択すると途中解約やダウングレードができない。この件に関するサポートやアップグレードの要望がある場合は要問合せ(英語)
FileMaker Cloud 自身の操作では、 BYOL を AWS のリザーブド・インスタンスに適用できない件は、FileMaker 公式のオンラインコミュニティでも議論されています。
 参考:BYOL to a reserved instance on FileMaker Cloud (英語)

 スレッド内でも言及されていますが、あらかじめ AWS でリザーブド・インスタンスを購入しておいて、後で FileMaker Cloud の BYOL に結びつけるという裏技もあるようです。ただし公式対応ではないため、微妙です。
 参考:Using an AWS Reserved Instance with FileMaker Cloud (英語)

まとめ

すでに社内に仮想環境があるのであれば、仮想マシンを一つ作成するだけで FileMaker Server 環境を構築できますので、FileMaker Cloud の必要性は低いと思います。これはAWS 等のクラウドを運用中の企業でも同様です。

 社内にサーバ技術者がいない、いろいろ考えず手っ取り早く FileMaker を試用したいといった場合には、 FileMaker Cloud が威力を発揮すると思います。ただ、FileMaker AWS への登録、キーペアの作成、FileMaker Cloud 申し込み、FileMaker Cloud へのキーペア紐づけ等の設定は最低限必要になるのでご留意ください。


■ FileMaker Cloud 関連情報(随時更新)
FileMaker Cloud のチュートリアル(18/09/04追記)

FileMaker Cloud スターティングガイド(18/09/04追記)

FileMaker Cloud Support ページ [英語](18/09/03追記)
FileMaker Cloud に関するサポート情報がコンパクトに表形式でまとめられています。



参考リンク:
*本稿執筆にあたり、以下を参考にしています。
FileMaker ServerとFileMaker Cloudの比較 [公式サイト]
FileMaker Cloud 技術仕様 [公式サイト]
ファイルメーカー、「FileMaker Cloud」の日本リリースを発表 [公式サイト]
料金単価表‐電力(従来からの料金プラン) [東京電力]