2017-07-07

FileMaker 16 と iBeacon の適用モデルを考える

 FileMaker 16 では「領域監視スクリプトステップを構成」というスクリプトステップが新たに加わりました。これにより、 iOS端末が予め指定する iBeacon の電波を受信すると、スクリプトをトリガすることができるようになりました。本稿では、FileMaker Go と iBeacon の利用モデルについて少し掘り下げたいと思います。

 尚、本稿を執筆するにあたって、 iBeacon と iOS端末を使用したテストを行っておりますが、実装を伴わない思考実験的な内容も含まれていることをお断りしておきます。

iBeacon 適用モデル

本稿では、よく紹介される展示施設でビーコン接近時に展示物等の案内や説明を端末に表示する「少数非近接ビーコンモデル」と、倉庫等で多数のビーコンが近接存在する環境で目的のビーコンを特定する必要がある「多数近接ビーコンモデル」について、続稿では倉庫等で物品一つ一つにビーコンを取り付け物品の存否等を管理する「単品管理モデル」について、計3つの適用モデルについて考えます。

少数非近接ビーコンモデル

 iBeacon の利用例記事で見かけるのは、美術館などの展示施設で iBeacon を配置し、iOS端末でビーコン信号を受信時に展示物の案内を表示する、というものです。
下図の例は、各展示エリアの入口(各円の中心部)に iBeacon を配置し、iOS端末を手にする訪問者が入口に接近するとビーコン電波を受信し、端末にはエリアの展示物の案内が表示される、というものです。

 FileMaker 16上の「領域監視スクリプトステップを構成」スクリプトステップは、最大20までの領域監視を設定できるので、図のような小規模なものであれば、アプリ開発者は同スクリプトステップの引数の UUID、Major、Minor を指定し、各エリアに配置された当該のビーコン信号を拾った時に当該エリアの案内を表示するようにアプリを開発するだけとなります。順路を逆戻りして一度見たエリアをまた見たいという訪問者は、そのエリアの入口付近に近づけば、再度スクリプトが実行されて案内が表示されます。

 それでは、20を超えるエリア(監視領域)がある場合はどうでしょう? 順路を設定できるケースではエリアを離れた時点でその領域監視を削除し、新たな領域監視を構成すればよいかもしれません。上図を例にとれば、邦画エリアを出て浮世絵エリアの監視領域に入った時点で邦画エリアの領域監視を削除し、21番目のエリアの領域監視を構成する、といった具合です。

多数近接ビーコンモデル

 次に倉庫の棚卸を考えてみます。メーカーA社は複数の倉庫を有し、まず調布倉庫で棚卸の効率化を行おうと考えています。現在は、複数の棚卸作業者が商品リストを片手に倉庫内を回り、棚にある商品を数えてその数をリストに書き込み、その作業が終了するとデスクに戻って棚卸数をPCに入力しています。

システム要件

 現在の棚卸方法に不満のあるA社の経営者は、新たに以下の要件を満たす iBeaconシステムを導入したいと考えています。
  1. 倉庫内にある各棚(下図の各区画(A~I)の「棚1」~「棚25」、計150台)の正面中央にiBeacon を設置。
  2. 複数の作業者が iOS端末を持ち、「各棚に接近して“近い商品検索”ボタンをタップすると最も接近した棚にある全商品が端末画面上に一覧表示される」(最近接棚商品表示要件)。
  3. 各作業者は上記3で表示された商品の棚卸数を入力。その棚の全商品の入力を終えたら次の棚へ移動し、同様の差作業を行う(以下、この繰り返し)。
    これにより、棚卸作業に要する時間を短縮する。
各棚の正面に iBeacon を設置

 上記の依頼を受けた開発者T君は、第一段階としてシステムのプロトタイプを作成してA社の要求仕様に合致するシステムが作成できるかテストすることにしました。まずデータベーステーブルの設計を考えます。iBeacon には UUID(32桁の16進数)、Major(0~65535)、Minor(0~65535)(UMM)を設定でき、iOS 端末は UMM を含むビーコン情報を受信し、さらに FileMaker Go 16 はこのビーコン情報を BeaconRange 関数で取得することがでます。 T君は iBeacon と各棚をデータベース上で1対1で結び付けるように、以下のようなテーブル/リレーション設計を行いました。

 このリレーションを使用して以下のようなレイアウトを作成し、倉庫/UUID、倉庫区画/Major、棚名/Minor を登録できるようにします。

各区画/各棚毎に領域監視の設定と解除のボタンも配置しているが、本モデルのテストでは不使用

 さらに商品テーブルには [UUID](倉庫)、[Major](区画)、[Minor](棚)フィールドを用意し、各棚とその棚に置かれる商品を関連付けます。こうしておけば、特定の棚(iBeacon)にある商品を UUID/Major/Minor により検索できるようになります。

 次にT君は“近い商品検索”ボタンの仕様について考えます。上述の「最近接棚商品表示要件」という条件を満たすために、調布倉庫の一区画を図にしてみました。ビーコンは各棚の正面に設置されています。

A区画図
iBeaconは各棚正面の真中(棚3と6では円の中心)に配置、円内がiBeacon信号の到達範囲

 iOS端末をPの地点へ持って行き“近い商品検索”ボタンをタップしたと想定すると、端末に最も近い棚1にある全商品を検索する必要があります。そこでT君はまず RangeBeacons 関数の引数に調布倉庫の UUID とA区画の Major を指定して、端末が受信するすべての棚ビーコンの情報を取得することにしました。この時、RangeBeacons 関数 は棚1ビーコンのほか、2、6、7、11もしかすると棚3のビーコン情報も拾ってきます。幸いなことに、RangeBeacons 関数はUUID、Major、Minor(UMM)の他に「精度」(ビーコンと iOS端末間の距離)も返してくれるので、この「精度」が最小の値をもつ ビーコンが最も近接した棚ということになります。こうしてT君は最近接の棚ビーコンを特定し、そのビーコンの UMM を持つ商品レコードを検索・表示するスクリプトを作成し、“近い商品検索”ボタンに割り振りました。これでプロトタイプが完成です。

 A区画でプロトタイプのテストを行う前に、A区画の棚1~棚25の全てに UUID、Major、Minor を設定した iBeacon を取り付け、A区画の棚にある全商品レコードの[UUID]、[Major]、[Minor] の各フィールドには当該iBeaconの UUID、Major、Minor を入力し、商品と棚(iBeacon)を関連付けしました。これでテスト準備完了、いよいよテストです。T君は iOS端末を上図のP地点へ持って行き、作成したプロトタイプを起動、“近い商品検索”ボタンをタップしました。この時、RangeBeacons 関数は下表の値を返していました。表で最小の[精度]を持つ棚は「棚1」であり、よってiOS端末P は「棚1」に最も近接しているので、T君の考えた「最近接商品表示ロジック」によるスクリプトが的確に動作し、「棚1」にある商品を画面上にすべて検索・表示しました。

棚番
UUID
Major
Minor
近さ
精度
rssi
棚1 BA80FEBE-6823-42ED-AA6A-XXXXXXXXXXXX 0 1 2 0.68 -62
棚6 BA80FEBE-6823-42ED-AA6A-XXXXXXXXXXXX 0 6 3 3.64 -74
棚2 BA80FEBE-6823-42ED-AA6A-XXXXXXXXXXXX 0 2 3 6.71 -83
棚7 BA80FEBE-6823-42ED-AA6A-XXXXXXXXXXXX 0 7 3 10.56 -83
棚11 BA80FEBE-6823-42ED-AA6A-XXXXXXXXXXXX 0 11 3 21.33 -88
上表は説明を補助するための表で、表の値とA区画図は一致しない可能性があります。

 ここでまではとても良くできたT君でしたが、一つ問題に気づきました。それは、RangeBeacons 関数の「精度」が不安定で常に値が変動する点です。特に数十cm以上離れると実際とは数倍異なる距離を返すことがあります。上記の調布工場のケースでは各ビーコン間の距離が結構はなれており、相対距離は正しい(最近接ビーコンの距離値が最小)になると想定されるので問題にならないかもしれませんが、ビーコン同士がより近接する環境では、上記の「最近接棚商品表示要件」を満たせない可能性があります。
 その場合は、電波を遠くに飛ばさない近接特化型ビーコンや、(上記システム要件を一部変更する必要がありますが)ボタンを押したときだけに電波を発信するタイプのビーコンの採用を検討する必要があるかもしれません。

参考:

単品管理モデル

本モデルでは、各物品に iBeacon を取り付け、常時物品の所在を管理します。倉庫の天井などに固定した端末を通じて、物品に異動があるった場合は常にサーバ上のデータベースを更新し、異常があった場合の自動メール送信処理等も重要になります。単品管理が必要な物品は高額あるいは貴重なものとなるので、iBeacon の信頼性に加え、iBeacon の管理機能(多数あるビーコンの電池残量や製品寿命の管理や、故障時の交換処理の簡易性等)も重要になると思われますが、このモデルについては稿を改めたいと思います。




(土屋)


参考リンク

2017-06-27

FileMaker データベース認証に oAuth を利用する

 FileMaker 16 の新機能を使用して弊社在庫管理システムテンプレート『FMEasy在庫』の機能を拡張するというテーマで、前回までに WebDirect を使用した宅配便送状の印刷と、AfterShipから配送データを取得してアプリ内で荷物追跡情報を表示する方法をご紹介してまいりました。今回はその締めくくりとして、oAuth による FileMaker データベース(以下、FileMaker DB)へのログインについてご説明します。

 一回目:FileMaker と WebDirect 16 で宅配便送状を印刷し、配送状況を追跡する
 二回目:cURL と REST API を使用し、FileMaker アプリ内で配送状況を追跡

oAuth 認証で FileMaker にログインし、出庫画面から送状発行と追跡をする
出庫画面から運送業者の送状を発行し、配送状況を追跡するまでの流れ

 oAuth は一連のデータベース操作の窓口を担う認証機能になりますが、FileMaker DB にパスワードを記憶させないという利点があります。

オープン認証 (oAuth) をざっと説明

 oAuth を簡単に説明すると、外部の Web サービスに登録されているユーザ情報を使うことによって、アプリケーションに代理ログインできるしくみです。Google アカウントや Microsoft アカウントなどを使って外部サービスにログインされた方もいらっしゃると思います。

 FileMaker 16 が oAuth 対応になり、通常の FileMaker アカウントの代わりに Google、Microsoft Azure Active Directory、および Amazon アカウントを使って FileMaker データベース(以下、FileMaker DB)にログインできるようになりました。


oAuth 経由で FileMaker にログインするための事前準備

 oAuth で FileMaker DB にログインするためには、以下のものをそろえる必要があります。

  1. FileMaker Server 16 と必要数分のアクセスライセンス
  2. 有効なドメインのサーバ証明書
  3. クライアント ID、シークレット、テナント ID (Asure の場合)
  4. oAuth 用ログインユーザアカウント

FileMaker で oAuth を有効にする方法

 oAuth 経由で FileMaker にログインするための具体的な手順を以下に示します。
ここでは、Google アカウントを例に進めていくことにします。

 作業の手順は FileMaker 公式にまとめられていますので、以下もご参照ください。
 オープン認証 (OAuth) 資格情報を使用したソリューションへのアクセス

  1. FileMaker Server にサーバ証明書をインポートします。
    FileMaker Server Admin Console にログインし、データベースサーバ→セキュリティの順にすすみ、「データベース接続に SSL を使用する」にチェックをつけて“証明書のインポート...” ボタンをクリックします。

    カスタムサーバ証明書をインストールする
    SSL を有効にし、証明書のインポートを選択する


     証明書のインポートダイアログが表示されますので、署名入りの証明書ファイル、プライベートキーファイル、中間証明書ファイルを指定してインポートします。

    カスタム証明書インストール用ダイアログ
    カスタム証明書インポートのダイアログ
  2. FileMaker Server を再起動します。
  3. http://console.developers.google.com/ にログインします。
  4. 認証情報→認証情報を作成の順にすすみ、「oAuth クライアント ID」 を選択します。

    oAuth クライアント ID を登録
  5. oAuth 同意画面を選択し、メールアドレスとサービス名を入力して保存します。
    oAuth 同意画面を登録
    oAuth 同意画面を登録
  6.  アプリケーションの種類の選択ページでは、「ウェブアプリケーション」を選択し、任意の名前を指定してから、リダイレクト先を指定します。

    oAuth のリダイレクトリンク先を登録
    oAuth 認証をウェブアプリケーションにし、そのリダイレクト先を指定する

    リダイレクト先は https://ドメイン名/oauth/redirect になるように指定します。
  7. 無事 oAuth クライアント ID が作成されると、以下のようなダイアログが表示されますので、クライアント ID とクライアントシークレットをメモしておいてください。

    oAuth クライアント ID とクライアントシークレットをメモする
    oAuth クライアントのクライアント ID とクライアントシークレットを取得する
  8. 再び FileMaker Server Admin Console にログインします。データベースサーバ→セキュリティの順にすすみ、クライアント認証を 「FileMaker と外部サーバーアカウント」に変更して設定を保存します。
    クライアント認証を「FileMaker と外部サーバアカウント」に変更
    クライアント認証を「FileMakerと外部サーバーアカウント」に変更する
  9. 外部サーバーアカウントとして Google の歯車アイコンをクリックすると、Google の設定ダイアログが表示されますので、手順 7. でメモしておいた Google クライアント ID と Google クライアントシークレットを入力し、“保存”ボタンをクリックします。
    Google クライアント ID とシークレットを入力する
    Google クライアント ID と Google クライアントシークレットを入力
  10. FileMaker Server を再起動し、手順 11. の Google アカウントのスライダーを有効にします。

 これで FileMaker Server で oAuth が使えるようになりました。

補足事項:
  • サーバ証明書をインポートした直後は、FileMaker Server を再起動しても FileMaker Server が証明書を認識しない場合があります。その場合は、いったんサーバ機を再起動すると認識されることがあります。
  • サーバ証明書のインポートに失敗した場合は、FileMaker Server のディレクトリでコンソールウィンドウを開き、fmsadmin certificate delete コマンドを実行すると、カスタム証明書を削除することができます。削除後はいったん FileMaker Server を再起動してから、証明書のインポートをやりなおしてみてください。


FileMaker データベースファイルへのユーザアカウントの登録

 FileMaker Server 側の oAuth 認証受付の準備が終わったら、データベースファイルにログインユーザアカウントを登録します。

  1. FileMaker Pro から管理者権限でデータベースファイルを開き、FileMaker のメニューより「管理」→「セキュリティ」の順に進みます。
  2. アカウントの一覧が表示されますので、認証方法を「Google」にし、そして「ユーザ名」にはGoogleにログインするためのメールアドレスをフルで指定します。

    oAuth ログイン用アカウントを FileMaker DB に登録する
    アカウント管理画面に oAuth ログイン用のユーザアカウントを登録する
  3. 同じ要領で、クライアント数分のアカウントを登録します。
補足事項:
  • 分離モデルを採用している FileMaker データベースシステムの場合は、関連するすべてのファイルに oAuth 用のアカウントを登録する必要があります。


oAuth による FileMaker データベースのログイン

 oAuth による FileMaker ログインの設定が終わったら、実際にログインして動作を確認します。

FileMaker Pro16 によるログイン

 FileMaker Server 16 で公開されているデータベースファイルに FileMaker Pro 16 クライアントからアクセスすると、以下のようなダイアログが表示されます。

oAuth 対応の FileMaker Pro 16 ログインダイアログ
oAuth 対応のFileMaker Pro 16 ログイン画面
ここで、Google ボタンをクリックすると、以下のようなアカウント選択ページが表示されますので、適切なアカウントを選択し、パスワードを入力してログインします。

FileMaker DB にログインする Google アカウントを選択
ログインする Google アカウントを選択
上図は、Web ブラウザに Google アカウントが記録されている場合のページですが、Web ブラウザにアカウントが記録されていなければ Google ログイン用のメールアドレスを入力するよう促されますので、正しいメールアドレスを入力します。

 Google アカウントのログインに成功すると、以下のようなダイアログが表示されますので、“許可”をクリックします。

ブラウザから表示される FileMaker プログラムの実行許可を求めるダイアログ
プログラムの実行許可

 すると FileMakerアプリの画面に戻ります。後の操作は FileMaker のユーザ権限にしたがって通常通りに行えます。

oAuth による FileMaker ログイン直後の Main Menu 画面(FileMaker)
oAuth によるFileMaker ログイン直後の FMEasy在庫 Main Menu 画面

WebDirect によるログイン

 WebDirect 用の公開リンクにアクセスし、開きたいデータベースファイルをクリックすると、以下のようなログインページが表示されます。

oAuth 対応 WebDirect サインインページ
WebDirect 用の oAuth 対応サインインページ


 ここで、Google ボタンをクリックすると、以下のようなアカウント選択ページが表示されますので、適切なアカウントを選択し、パスワードを入力してログインします。

WebDirect にログインする Google アカウントを選択
ログインする Google アカウントを選択

 
 Google アカウントのログインに成功すると、WebDirect で FileMaker DBが開きます。


oAuth による FileMaker ログイン直後の Main Menu 画面(WebDirect)
oAuth による WebDirect ログイン直後の FMEasy在庫 Main Menu 画面

懸案事項

 oAuth は事前設定さえ済ませてしまえば、あとはログインを許可するアカウントを FileMaker DBに登録するだけで使えるようになりますが、運用にあたっては以下のような問題が発生する可能性がありますので、ご留意ください。
  1. ログインに成功すると、FileMaker を終了しても、oAuth で管理される外部 Web サービスのセッションが残る
    これは他の Web サービスのセッション管理機能に依存しますが、Google の場合 FileMaker を終了させても、二回目以降に FileMaker DB にログインしようとすると、パスワードの入力を求めてこず、そのままログインできてしまいます。
  2. Web ブラウザにログインパスワードが保存されていると、第三者に勝手にログインされる恐れがある
    個人の専用パソコンからのアクセスなら、パスワード入力の手間が省けて便利ですが、複数のユーザで一つのパソコンを共有利用している場合は、勝手にログインされてしまう可能性があります。
 各自パスワード管理をしっかりやってね、で解決すればよいのですが、手軽さゆえ思わぬトラブルにつながりそうな機能なので、oAuth ログインを許可するアカウントのユーザ権限は入力・照会レベルにとどめるような工夫は最低限必要かと思います。


 oAuth の危険性を指摘する記事もネットで見つかりますので、日ごろから目を通しておくとよいですね。


 参考記事:第147回 便利と危険は裏返し 〜 知っておきたい、OAuthの仕組み 〜 (TDK Techno Magazine)




 土屋企画では FileMaker システムの受託開発およびコンサルティングを請けたまわっております。お問い合わせはこちらよりお願い致します。


(亀)




2017-06-26

cURL と REST API を使用し、FileMaker アプリ内で配送状況を追跡

 前回は在庫管理テンプレート『FMEasy在庫』をカスタマイズし、宅配便の送状を印刷・登録するところまでをご説明しました。

 前回の記事: FileMaker と WebDirect 16 で宅配便送状を印刷し、配送状況を追跡する
 参考:FMEasy在庫 IWP/WD R1.5


AfterShip による配送状況の追跡
出庫画面から運送業者の送状を発行し、配送状況を追跡するまでの流れ


 本稿では、出荷後の配送状況の追跡機能を実装する方法(上図の7.と8.)について説明していきます。
 機能の実装に入るまえに、FileMaker から出荷物の配送状況を取得するしくみについて触れます。

世界402社と日本3社の配送業者の追跡データAPIを提供する AfterShip

  FileMaker 単体では宅配便の配送状況の情報を取得することはできません。このため、各宅配業者が提供する追跡サービスを使用することになります。

 これまでは、データ受信の窓口となる API サービスを利用するためには宅配業者別に手続きが必要になり、API 接続手順の把握とシステムへの追跡機能の実装までに大変な手間と時間がかかってしまったのですが、AfterShip という荷物追跡サービスは世界 402 社の配送業者の追跡データ API を提供しており、その中に日本のヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の 3 社も含まれています。

 AfterShip が対応している日本の宅配便会社

 つまり、AfterShip の API を利用すれば、これら 3 社の配送状況の追跡をまとめて処理でき、FileMaker の送状発行機能と連携させることによって、送状の印刷から荷物追跡までがトータルに行えるようになります。

AfterShip の利用料金について


 2017年6月26日現在、AfterShip は 1月あたり 100 個までの出荷物の追跡が無料となっています(Basic プラン)。
 100 個を超える荷物を追跡するには、その個数に応じた料金が適用される Premium プラン、10万個を超える場合は個別対応の Enterprise プランという料金が適用されます。

 価格プランはこちらを参照してください。
 https://www.aftership.com/pricing

 たとえば、一月あたり 10,000 個なら $173/月、50,000 個なら $573/月となりますので、出荷量に応じた追跡計画を立てることができます。


7. AfterShip に配送状況を問い合わせる


 AfterShip の API サービスを利用するまえに、AfterShip へのユーザ登録が必要になります。

 AfterShip ユーザ登録・ログインページ
 https://secure.aftership.com/signup/

 google アカウントをお持ちの方は、google アカウントでログインするだけで自動的に AfterShip に登録されます。

 FileMaker から AfterShip API を利用できるようにするには、さらに API Key の取得と配送業者の登録が必要になります。

  1. AfterShip API Key を取得する

    AfterShip へのユーザ登録が終わったら、設定ページから API の順に進み、API Key を取得します。 
     通常は登録完了時に自動的にデフォルトの API Key が付与されますのでそれを使えばよいですが、必要に応じて Key を追加生成することもできます。

    AfterShip API key の取得

  2. 追跡対象の配送業者(couriers)を登録する

    出荷物の追跡を行いたい配送業者を登録します。設定ページから couriers の順に進み、inactive 入力ボックスに japan と入力すると、日本の配送業者が表示されますので、その中から必要な業者を選びます。

     以下の図は、ヤマト運輸の選択まで終わったところです。

    配送業者(couriers)の登録ページでヤマト運輸の登録が終わったところ


 それでは、いよいよ FileMaker からAfterShip を呼び出すための設定をします。
 AfterShip API は REST 形式になっており、配送状況の追跡を行うためには基本的に以下の情報が必要となります。
  • AfterShip API への URI(https://api.aftership.com/v4/
  • 配送会社識別コード(slug)
  • 送状番号(tracking_number)
 配送会社識別コードと送り状番号は FileMaker のユーザインタフェースから登録できるようにしておき、AfterShip API からの応答データを登録するためのフィールド群も用意します。

 下図の赤で囲んだ部分をご覧ください。ポータルの 2 段目が AfterShip から取得する追跡データを保存するためのフィールド群です。荷物(送状)の追跡を行う場合は、当然[送状No]も必要になります。


 AfterShip API の公式ドキュメントはこちらです。

 AfterShip API Documentation
 https://www.aftership.com/docs/api/4/overview

 それでは、このドキュメントに従って、FileMaker から AfterShip API に接続してみましょう。

 AfterShip への送状番号の登録


 AfterShip 経由で荷物の配送状況を追跡するには、先に送状番号を AfterShip に登録しておく必要があります。

 登録用の URI は https://api.aftership.com/v4/trackings/ になります。
 この URI に送状情報を POST メソッドで送信すれば、AfterShip に登録されます。

 php で記述した場合、たとえばこのようになります。

PHP

<?php

    //build header 
    $header = array( 

        'Content-Type: application/json',
        'aftership-api-key: cfa68bc1-5b9b-4ba2-b3c8-XXXXXXXXXX'

    ); 


    //build invoice data
    $data = Array(
        'tracking' => Array(
            'slug' => 'taqbin-jp',
                'tracking_number' => '44361185XXXX',
                'title' => 'YAMATO POST TEST'
        )
    );  

 
    //post data using curl
    $curl = curl_init();
    curl_setopt( $curl, CURLOPT_URL, 'https://api.aftership.com/v4/trackings' );
    curl_setopt( $curl, CURLOPT_CUSTOMREQUEST, 'POST' );
    curl_setopt( $curl, CURLOPT_HTTPHEADER, $header ); 
    curl_setopt( $curl, CURLOPT_POSTFIELDS, json_encode( $data ));
    curl_setopt( $curl, CURLOPT_SSL_VERIFYPEER, true );
    curl_setopt( $curl, CURLOPT_RETURNTRANSFER, true );
    $result = curl_exec( $curl );
    $json = json_decode( $result );
    curl_close( $curl ); 

?> 

 $header の中に json データ送信を宣言し、 aftership-api-key を指定します。
 $data の中に指定している slug がヤマト運輸を示す taqbin-jp、 tracking_number が送状番号、title が AfterShip の中で送状の識別を用意にする任意のタイトルになります。
 送信結果は最終的に $json 変数に格納されます。

 これを FileMaker の 「URL から挿入」ステップで記述すると、たとえばこのようになります。

FileMaker

変数を設定 [ $data; 値:
JSONSetElement ( "" ; 
        [ "tracking.tracking_number" ; "44361185XXXX" ; JSONString ];
        [ "tracking.slug" ; "taqbin-jp" ; JSONString ]; 
        [ "tracking.title" ; "YAMATO POST TEST" ; JSONString ] 
    )
 ]
URL から挿入 [ $json; "https://api.aftership.com/v4/trackings"; 
    cURL オプション: "-H \"Content-type: application/json\" " & 
        "-H \"aftership-api-key: cfa68bc1-5b9b-4ba2-b3c8-XXXXXXXXXXX\" " & 
        "-d " & $data ] 
    [ ダイアログなし; SSL 証明書の検証 ]


 php に比べると指定方法に多少コツがいりますが、かなりシンプルになりますね。

 $data の中に送状情報を組み立てておき、これを「URL から挿入」ステップの cURL オプションの -d オプションの中に指定することによって送信します。

 cURL オプション:
 "-H \"Content-type: application/json\" --- ヘッダオプション。json 形式のデータ送信を宣言
 "-H \"aftership-api-key: cfa68bc1-5b9b-4ba2-b3c8-XXXXXXXXXXX\" --- ヘッダオプション。aftership-api-key を指定
 "-d " & $data --- データオプション。$data に格納されているデータを送信

 送信結果は $json 変数に格納されますので、その中から必要項目を取り出せばよいことになります。

AfterShip API から戻される結果

 AfterShip API の戻り値は json 形式になります。前述の例では $json 変数に戻ってくるので、これを解析して利用します。
 データは一行で返りますので、これを FileMaker Pro 16 の JSONFormatElements 関数を通すと見やすいフォーマットに整形されますので、戻りデータを確認する際に有用です。

 JSONFormatElements( $json ) の結果はたとば以下のようになります。

JSON

{
 "data" : 
 {
  "tracking" : 
  {
   "active" : true,
   "android" : [],
   "checkpoints" : [],
   "created_at" : "2017-06-24T13:08:42+00:00",
   "custom_fields" : null,
   "customer_name" : null,
   "delivery_time" : 0,
   "destination_country_iso3" : null,
   "emails" : [],
   "expected_delivery" : null,
   "id" : "594e645ab6ee5fcf0b7XXXXX",
   "ios" : [],
   "last_updated_at" : "2017-06-24T13:08:42+00:00",
   "note" : null,
   "order_id" : null,
   "order_id_path" : null,
   "origin_country_iso3" : null,
   "shipment_delivery_date" : null,
   "shipment_package_count" : 0,
   "shipment_pickup_date" : null,
   "shipment_type" : null,
   "shipment_weight" : null,
   "shipment_weight_unit" : null,
   "signed_by" : null,
   "slug" : "taqbin-jp",
   "smses" : [],
   "source" : "api",
   "tag" : "Pending",
   "title" : "YAMATO POST TEST",
   "tracked_count" : 0,
   "tracking_account_number" : null,
   "tracking_destination_country" : null,
   "tracking_key" : null,
   "tracking_number" : "44361185XXXX",
   "tracking_postal_code" : null,
   "tracking_ship_date" : null,
   "unique_token" : "deprecated",
   "updated_at" : "2017-06-24T13:08:42+00:00"
  }
 },
 "meta" : 
 {
  "code" : 201
 }
}


 ここで、"meta" :{"code" : 201} が登録成功を示すシステムコードです。このコードが返れば AfterShip のブラウザ管理画面の追跡リスト上にこの送状データが表示されるようになります。
 また、このコードを拾って FileMaker テーブルのフィールド(下図の[ステータスコード])に登録したい場合は、以下のように関数を指定します。

 JSONGetElement ( $json ; "meta.code" )

 同じ要領でタイトルを下図の[aftershipタイトル]に登録する場合は、関数を以下のように指定します。

 JSONGetElement ( $json ; "tracking.title" )

 AfterShip への登録日時を下図の[ステータス]に登録するには、JSONGetElement ( $json ; "date.tracking.created_at" )と指定します。

AfterShip に送状情報を登録した直後の様子

 “登録”ボタンにより AfterShip に送状を登録した後に、ブラウザでAfterShipの送状管理画面を見ると、下図のようになっています。

AfterShip に登録された送状の一覧

8. 配送状況の問い合わせ結果を FileMaker に登録する

 AfterShip に配送状況を照会する


 AfterShip に荷物を登録後、配送状況を追跡するための URI は https://api.aftership.com/v4/trackings/配送業者コード(slug)/送状番号(tracking_number) になります。
 この URI に???送状情報を GET メソッドで送信すれば、AfterShip から配送状況が JSON 形式のデータで戻されます。

 AfterShip への配送状況の問い合わせを FileMaker の 「URL から挿入」ステップで記述すると、たとえばこのようになります。

FileMaker

URL から挿入 [ $json; "https://api.aftership.com/v4/trackings/" & 
    "taqbin-jp" & "/" & 
    "44361185XXXX"; 
cURL オプション: "-H \"Content-Type : application/json\" " & 
    "-H \"aftership-api-key: cfa68bc1-5b9b-4ba2-b3c8-XXXXXXXXXXX\" & "\" " ] 
[ ダイアログなし; SSL 証明書の検証 ]


 登録のときより照会の方が単純ですね。
 これによって $json 変数に配送状況の照会データが戻ります。
 照会に成功すると、 "meta" :{"code" : 200} が返ります。
 オプション解説、およびデータの読み出し方法の基本については、前述の登録方法の項をご覧ください。


 なお、最終の配送状況のみを戻したい場合は、 URI を https://api.aftership.com/v4/last_checkpoint/配送業者コード(slug)/送状番号(tracking_number)  にすればよいです。


 下図は各送状の“照会”ボタンを実行し、[ステータス](一般ユーザ向けに配送状況を表示)と[ステータスコード](システム管理者向けにシステムコードを表示)の更新が完了したときの画面です。

送状情報を AfterShip に問い合わせたときの様子

  上図では最終ステータスのみを記録するように作成していますが、機会があれば[追跡履歴]の取り出し方も説明できればと思います。


外部サービスを使うデメリットについて

 FileMaker 単体でできないことは外部サービスの力を借りることになりますが、導入時は魅力的に見えたサービスであっても、継続運用していくうちに様々な問題に直面することがあります。
そこで最後に外部サービスを利用する際の注意点をいくつか挙げておきます。
 
  1. バージョンアップに伴い、従来の呼び出し方法では動作しなくなる
    FileMaker と外部サービスとの連携が取れなくなる恐れがあります。
    外部サービスを導入する場合は、こまめなチューニングも考慮する必要があります。
  2. 無料サービスが有料化される
    そのサービスなしでは業務が回らない場合に、予期せぬコスト増大を招く恐れがあります。
  3. 良心的に見えた料金が値上がりする
    サービス提供側が料金を値上げするのはよくあることです。その場合、上記と同様にコスト増大が発生します。
  4. 社外秘のデータが外部に把握される
    サービスの内容にもよりますが、たとえばアンケート収集・解析サービスや、SNSサービス、翻訳サービスなど、社内用のデータを外部サービスと連携させて利用する必要がある場合、機密情報を外部サービスに流さないように注意を払うことはもちろんのこと、サービス提供会社の安全性やセキュリティ対策なども調査する必要があります。
  5. 終了する
    有料、無料にかかわらず、サービス提供側の事情でサービスが終了すると、そのサービスがシステムにとって重要なポジションを占める場合には、代替サービスの選定やシステム修正等の手間が増えることになります。


  FileMaker 16 の機能追加によって、外部 Web サービスとの親和性が向上しましたが、本格的にサービスを導入をするには、上記のような問題を視野に入れたうえでプロジェクトを設ける必要がありますので、発注側、受注側双方の理解が重要かと思います。


(亀)



 土屋企画では FileMaker システムの受託開発およびコンサルティングを請けたまわっております。お問い合わせはこちらよりお願い致します。



 

FileMaker と WebDirect 16 で宅配便送状を印刷し、配送状況を追跡する

 FileMaker 16 では cURL、JSON、oAuth などの Web 関連機能が多数搭載されました。これらを使用すると、ネット時代に適応した多様なソリューション開発ができそうです。

 そこで本稿では、弊社在庫管理テンプレート『FMEasy在庫』を使い、出庫画面に宅配便の送状発行機能と、出荷後に荷物を追跡する機能を追加する方法を考えてみます。


 参考:FMEasy在庫 IWP/WD R1.5


注:
 本稿は『FMEasy在庫』のユーザでない方でも、宅配送状の設計やWebDirect 16 によるPDF出力の方法、cURL/JSONを使用した荷物追跡機能の実装に関しては参考にはなるかと思います。


 処理の流れはざっと下図のようになります。本稿では2.~6.について説明致します。


出庫画面から運送業者の送状を発行し、配送状況を追跡するまでの流れ

1. oAuth による認証

 上図の冒頭部分のoAuth による認証については、別稿にてご案内したいと思います。

2. 出庫登録をする

 出庫登録は『FMEasy在庫』テンプレートにあらかじめ搭載されている機能のため、ここでは説明を省略します。
 『FMEasy在庫』は基本機能は無償でご使用いただけますので、出庫機能をお試しになりたい方はこちらからダウンロードしてください。

3.送状を登録する

 出庫(売上)伝票の作成後に物品を発送するための宅配便送状を登録するためのインタフェースを用意します。

 まず送状データを管理するための送状テーブルを新設し、リレーションシップ画面で出庫テーブルと送状テーブルをリレートします。詳細は省略しますが、1件の出庫データについて複数の宅配便送状を登録するように設計すると、複数個口に対応できるようになります。
 既存の出庫レイアウトにタブオブジェクトを配置し、出庫タブに出庫明細関連フィールド、送状タブに送状関連フィールドを配置します(下図参照)。

1出庫伝票に対して複数の宅配便送状を登録できるように設計しましょう 

 ポータルの上段には宅配送状とその印刷に必要なフィールドが、下段には荷物追跡に必要なフィールドが配置してあります。送状テーブルの設計時に参考にしてください。
 下段の荷物追跡関連フィールドには、外部 Web サービス(AfterShip)に配送状況を問い合わせ、その結果を自動入力します。この追跡機能については、別稿にて詳細を説明します。

 『FMEasy 在庫』をご利用のお客様へ 


 『FMEasy 在庫』を FileMaker 16 の WebDirect で開くと、下図のようにボタンの欠けが発生することがあります。

『FMEasy 在庫』の出庫画面を WebDirect 16 で表示すると一部のボタンが欠ける

 これは FileMaker WebDirect の上位互換性によって生じる問題のため、お客様の方でFileMaker Pro 16 を使ってボタン幅を調整してください。
 

4.WebDirect から PDF 出力できるようにする

 宅配便の送状フォーマットに準じたレイアウトを用意してておき、“印刷”ボタンをクリックして送状を出力します。 複数の宅配便や代引等に対応するとき場合は、その分だけレイアウトを用意し、スクリプト実行時に適切なレイアウトを選択します。
 FileMaker 16 の WebDirect は PDF 出力対応になりましたので、ここでは送状の“印刷”ボタン実行時に送状を PDF 出力するようにスクリプトを組んでみます。

 FileMakerクライアント情報は Get ( アプリケーションバージョン ) 関数を使うことによって取得できます。
 クライアントが WebDirect の場合は、Web Publishing Engine を含む文字列が返ります。WebDirect からのアクセス時に「レコードを PDF として保存」ステップを実行するようにします。 下図で赤く囲んだ部分が WebDirect アクセス時の PDF 出力関連部となりますので、参考にしてみてください。

「送状印刷Btn」スクリプト(赤囲み部分が WebDirect 向け PDF 出力ステップ部分)

注:
少し調べてみたのですが、iOS(iPad/iPhone)に対応した水平プリンタは存在しないようです。

5.送状を水平プリンタで印刷する

 前述の「送状印刷Btn」スクリプトでは、FileMaker Pro クライアント使用時には印字データが直接プリンタへ送られますが、WebDirect 使用時には サーバ上で送状のPDFが作成され、そのPDFファイルを開いて印刷することになります。

WebDirect では PDF のダウンロードとPDFの処理方法をユーザが選択する必要があるので、少し面倒

6.送状番号のバーコードを読み取って登録する

 宅配便の送状を印字したら、バーコードリーダーや iPhone などのバーコードスキャン機能を使い、送状に記載されている送状番号のバーコードを「送状タブ」上の[送状No]フィールドに登録できます。バーコードを読み取るか、手入力により[送状No]に登録すると下図のようになります。

送状のバーコードをスキャナで読み取り、[送状No]フィールドに入力したところ


 次回は、出荷後の荷物の追跡を FileMaker で行う方法についてご紹介します。




 ※土屋企画では FileMaker によるシステムの受託開発およびコンサルティング業務を請けたまわっております。業務関連のご質問はこちらよりお寄せ願います。


(亀)

2017-06-14

FileMaker WebDirect 16 のロードバランス

 前回は FileMaker Server 16 の WebDirect (WebDirect 16)の構成をマスタサーバ 1 台構成にした場合と、ワーカマシン 5 台構成にした場合とで、スレッド数(接続数)や Ramp-up(全スレッドを生成するまでの時間)の条件を変更しながらパフォーマンス計測を行いました。 
 本稿では ワーカマシン 5 台構成で WebDirect 16 のロードバランスがどのように機能するのかを見てみます。
【ワーカマシン5台構成のイメージ】

サーバ 5 台構成時 のロードバランス

 複数のワーカマシンで構成される WebDirect 16 は Webクライアント(ブラウザ)からリクエストを受信すると、より負荷の低いマシンにそのリクエストを割り当てます(ロードバランス)。
 下図は異なる 5 台のクライアント PC のブラウザから WebDirect にログインしたところですが、より負荷の低いワーカマシンにリクエストが割り振られていることがわかります。
FileMaker Server 16 Admin Console のステータス画面
 上図のような低負荷の状態では WebDirect のロードバランスが適正に機能していることが確認できます。ちなみに、ワーカマシン 1 は Webサーバ機能の他に、データベースサーバ機能とロードバランスの機能も担うため、他のワーカマシンの負荷が相当程度高くなるまでの間、自身では HTTPリクエストを処理しないようです。
 次に、WebDirect の負荷を増減させるとどうなるのか、Apache JMeter を使ってテストしてみました(下図)。

【表1】
No ワーカ数 スレッド ループ Ramp
(秒)
 
リクエスト/秒 所要時間(秒) 失敗数 1Recの平均作成時間(秒) 備考
1 5 500 1 0.5 1000 46 128 0.092  1回計測
2 5 500 1 2 250 58.5 1.5 0.117  2回計測
3 5 500 1 5 100 60 0 0.120  1回計測
4 5 500 1 7 71.4 49 0 0.098  1回計測
5 5 500 1 30 16.7 48 0 0.096  5回計測
6 5 500 1 40 12.5 48 0 0.096  5回計測
7 5 500 1 60 8.3 60 0 0.120  1回計測
8 5 500 1 90 5.6 92 0 0.184  1回計測

 本テストは 500 スレッド(≒500ユーザ)から 、出庫伝票(出庫ヘッダレコード1と出庫明細レコード1)を作成する FileMaker スクリプトを実行し、最初のリクエスト発行から 500 件目の出庫伝票の作成が完了するまでの[所要時間(秒)]を計測しています。Ramp は 500 スレッドを生成する時間です。
 たとえば、テスト No.1 では 500 のスレッドを 0.5 秒の間に作成し、最後のレコードが作成し終わるまでの[所要時間(秒)]が 46 秒であったことを示しています。[失敗数]は本来 500 件の出庫伝票が作成されるべきところ作成に失敗した件数を示しており、No.1 では 128 件の失敗(伝票未作成)が発生しました。下図は No.1 実行時のワーカ割り振りの状態です。


Ramp が 0.5 では接続がワーカマシン 1 に極端に集中してしまう

 0.5 秒間に 500 スレッドが発生する高負荷状態ではワーカマシン 2 に割り振りが集中し、ロードバランスが適正に機能せず、128件のレコード作成処理が失敗しています。

 次にテスト No.4 ( Ramp:7秒)のロードバランスを見てみましょう(下図)。ワーカマシン 3、5 への割り振りが大分多いですが、ワーカ 2、4 にも 80 程度のスレッドが割り振られています。
 
500 同時接続で Ramp 7 秒 のときのサーバ割り当ての様子

 下図は Ramp を 60 秒にしたときの割り振り状態です。ワーカマシン 2~4 にはほぼ均等にスレッドが割り振られていて、ワーカマシン 1 (マスタ)は若干少なめに割り振られています。

500 同時接続で Ramp 60 秒 のときのサーバ割り当ての様子

  以上のように、WebDirect 16 は短い時間に極端にアクセスが集中すると、ロードバランスが適に機能しない可能性があります。アクセスの間隔が長くなるに従い、HTTP リクエストが各ワーカマシンに均等に割り振られるようになると思われます。

エラーが発生しない適正なリクエスト頻度

 下図は表1 をグラフ化したものです。Ramp が 2 秒迄だとエラーが発生しますが、Rampが 5 秒になると全 500 スレッドがエラー無く終了します。500 スレッド÷ 5 秒で 100 スレッド/秒、つまり1秒間に 100 のリクエストであればエラーが発生しません。
 ただ、所要時間は 60 秒なので、この結果を実運用に適用できると仮定すると、ユーザがリクエストを発行してから 60 秒程度、待たされることになります。Ramp が 60 秒、つまり 1 秒に 10 弱のリクエストの場合は、ユーザの待ち時間が数値上はほぼ無くなります。1 秒あたり 10~100 リクエスト程度の範囲に、安定運用可能なリクエスト頻度の目安があるのかもしれません。



マスタ1台構成 vs ワーカ5台構成

 最後に、下図は500スレッドの処理を完了するまでの時間を、1 サーバ構成と 5 ワーカマシン構成でパフォーマンスを比較した折れ線グラフです。折れ線の左の部分は、7 秒間に 500 のスレッドからのリクエストを処理する場合、1 サーバ構成の方が 5 ワーカ構成より有利であることを示しています。
 本テストは 7 秒~90 秒という短い時間内で終了してしまうテストなので、より長い時間、継続的に負荷がかかるようなケースには当てはまらないかもしれませんが、ワーカを増やせば実行速度も増す、と単純に想定することはできないことを示していると思います。



(亀)