IPS(Indoor Positioning System、屋内測位システム ― 屋内で人・モノの位置を把握するシステム)には、三点測位、フィンガプリント、AoA/AoD、GMM、機械学習等々、様々な方式があり、測位の精度を競い合っています。ネットを検索すると関連の記事や論文が多数見つかります。
ただ、すべてのシステムの要求仕様が、誤差1m未満の精度を求めているわけではなく、位置は大雑把にわかれば良い、その代わり(ビーコン信号の)受信機を減らしたい、というモノもあります。
例えば、老人ケアセンターであれば、入居者の存在確認(施設から黙って抜け出していないか)が最重要で、位置については大体の位置を把握できれば十分ということもあります。
また、大規模な工場、資材置場、倉庫などで、フォークリフトや運搬機などの大きな機材にビーコンを取り付けてその所在地を把握するようなシステムでは、誤差1mの精度は要求されないことも多いでしょう。
今回は、東京ドームかそれ以上に広いエリアにあるビーコンのおおよその位置(エリア)を、できるだけ少ない受信機(Raspberry Pi)で推定する方法について考えて見みます。
尚、このエリアは障害物がほとんど無い、大規模な工場や倉庫のような場所を想定しています。
受信機の配置を考える
下図でピンクが受信機(Raspberry Pi)でブルー(B)がビーコン(iBeacon)です。ビーコンは枠内にあり、ビーコンの信号を遮る障害物はほぼ無いもとします。
【グリッド】
グリッドについて
上図をグリッド(但し、ビーコンは除く)と呼びます。 受信機(ピンク)は正方形の4つの角と中心に置きます。 この正方形の一辺の長さをグリッドサイズと呼びます。広大なエリアをカバーする場合、複数のグリッドを置くことになるので、グリッドサイズが大きければ大きいほど、使用する受信機の数は減少します。
使用ビーコン
使用するビーコンの信号の最大到達距離は100m以上とします。ちなみに、Aplix社のビーコンの信号最大到達距離は100m、丸紅情報システムズ社のビーコンは150mとWebサイトに書かれています。グリッドサイズ50m
グリッドサイズ150m
次にグリードサイズ150mのビーコンB(検知困難地点)について考えます。このケースでは受信機からビーコンBまでの距離は75mです。75m離れていると非検知の可能性が高まります。ここでは受信機AがビーコンBを検知できず、受信機BとCが信号を検知したと仮定します。このとき受信機BとCを中心とする円の交差する黄色エリアにビーコンBがあると推定されます。
グリッドサイズ200M
最後にグリッドサイズ200mのケースです。この場合、受信機A、B、CからビーコンBまでの距離は100mとなります。100mとなると受信機がビーコンの存在を検知しない可能性がさらに高まります。下図では、ビーコンBを検知した受信機がCのみだったと想定しています。この場合、ビーコンはCを中心とする円の円周付近上にあると推定されます。
但し、100mになると元々低いRSSIの精度がさらに低くなるため、円周の外側と内側に大きく逸脱して存在する可能性が高くなります。下図で黄色エリアがドーナツ型なのはそれを表しています。
受信機からビーコンまでの距離について
下図はAplix社のビーコン2台と丸紅情報システムズのビーコン3台のRSSIの計測結果です。この時は、Aplix社のビーコンの1台は25m以上になると検知されないことが多く、丸紅はより頻繁に検知されましたが、RSSIは想定される値と大きく異なっています。
BLE 5 対応ビーコンの到達距離
人や障害物が少なからず存在するエリアについて
繰り返しとなりますが、上記は障害物がないエリアを想定しています。人が多くいたり、壁や棚などの障害物がある場合、適切なグリッドサイズは4m~15m程度になります。また、人が密集する展示場やイベント会場、金属製の背の高い棚が多く置かれている倉庫などでは、IPSによる測位がそもそも困難・不能なケースもあります。
NuckyT
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